【カーネリア】 6巻


第6回 仕組みの確認

 テーブルの上には、僕の導力器と、空にされたバッ
グと、あの古紙の包みが並べてある。遊撃士は僕の顔
と卓上の小物とを、まるで見比べるように交互に眺め
ていた。いかつい皮手甲をはめた右手を見せ付けるよ
うに、しきりとあごをなでる。
 僕が連行された先は、宿酒場の2階だった。遊撃士
は念入りに間取りを確かめ、一番奥の部屋へと僕を通
した。どうやら近くに協会の支部はないらしい。
 最初に僕の前に座ったのはやせている方だった。名
前を聞いたが、すぐにどっちがクレイでどっちがパヴ
ェルだか忘れてしまった。身体検査が終わった頃に手
甲をした方、つまりパヴェルかクレイが戻ってきて、
相棒に耳打ちする。結局、シスターは見つからなかっ
たみたいだ。
 彼らの興味は、シスター・カーネリアと《猟兵団》
の方に集中していた。カーネリアから列車の中で聞い
たことを全部しゃべると、僕は被害者づらして逆に彼
女のことをたずねた。真実、僕は被害者だった。
「あの女はセルナート、アイン・セルナート」やせ型
の方が手帳を読み上げた。「元は《猟兵団》の構成員
で、現在の所属と活動内容は不明だ」
「まあ、善良な市民の付き合う相手じゃない」
 もったいぶった調子で手甲の男は言い、古紙の包み
に手を伸ばした。こちらの様子を窺いつつ、包みを机
の中央に広げる。出てきたのは、粘土のこびりついた
金属の塊だった。「研究機関に運ぶ途中」と僕はでま
かせを言い、居もしない客の住所をつらつらと並べ立
てた。遊撃士は残さずメモを取る。
 そしてそのまま、僕は遊撃士たちと同宿することに
なった。駅での一件の調書を取るため翌日は支部に行
くことになったが、僕の方に不満はなかった。どうや
って朝まで無事に過ごすか、差し当たってそれが最大
の悩みだったからだ。
 
 
 僕は日の出と共に目を覚ました。平穏な朝の訪れに
安堵の吐息をついたときには、もう遊撃士たちの姿は
なく、廊下の方から彼らの声だけが聞こえた。
 上着に袖を通すと、右肘が痛んで、あの女のことを
思い出す。とたんに言いようのない不安を感じ、身支
度もそこそこに僕は導力器の調整を始めた。
 裏蓋を開け、油なめしの鹿革でクオーツをつまみ上
げる。別のスロットへ差し込み、軽めの魔法を中心に
した構成に変えるまで、5分とかからない。1本ずつ
ネジを元通りにしめ直していくと、ようやく気持ちが
落ち着き、僕はまたベッドに転がった。
 そこに宿の使用人らしき背の高い女が、洗面用のお
湯を持ってやってきた。湯気の立つたらいをテーブル
にどんと置くと、女は黙ってシーツを剥ぎ取りにかか
る。ベッドから追い出された僕が、仕方なくたらいの
前に向かったとき、開け放たれたドアの向こうを、2
つの影が続けさまに横切った。
「来た」僕は自分の呟きを耳にした。片手に石鹸を持
ったまま、信じられないような冷静さで戸を閉め、鍵
を掛け、壁際に立つ。土壁の向こうで、怒号と肉のぶ
つかる音とがひと時に交錯する。腰の鎖を手繰り、い
ま調整したばかりの導力器を握り締めた。
 遊撃士は2人、さっき見えた相手も2人。僕を加え
れば数では勝つ。ドアの方へ向き直ったとき、どこか
遠くで、また僕自身が呟いた。
「2人だって?」シスターは1単位「3人」だと言っ
ていた。なら、もう1人はどこに――自分の問いに凍
りついた僕の首に、何かが巻きつき、あっと思う間も
なく後ろに引き倒された。青ざめた視界の隅に、シー
ツを引き絞る女の血走った目が映った。たらいを持っ
てきたあの女だった。手の中で導力器を唸らせて、僕
は倒れたまま魔法を放つ。圧縮された空気が僕のふと
ももを切り裂き、女をくの字に折り畳んで窓まで吹き
飛ばした。白いリネンと鮮血とが、風の突き抜けた跡
に渦を巻いた。