第2回 誘い
少女は店内に踏み込み、後ろ手に扉を閉める。
どうやら店を間違えたワケではないらしい。
まだあどけなさの残る表情……
どれだけサバを読んでも18がいい所だ。
実際は15、6だろうか。
暗褐色の瞳と髪の毛からして東方系だろうが、
鼻筋の通った顔立ちを見るとそうも言いきれない。
少女はゆっくりと歩き始めた。
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一足ごとに、かわいらしいひざが
スカートの裾から顔を覗かせる。
至って飾り気のないデザイン……
見た目よりも動きやすさが
きっと彼女のお好みなのだろう。
そのせいか、胸元を飾る東方風の首飾りも
素っ気ない細工の物に見えてくる。
……ボリュームに欠けるのも1つの原因だろう。
それ相応の色気を身に着けるには
まだまだ時間がかかりそうだ。
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東西両方の特徴を備えた容姿に
飾り気のない質素な衣服――
少女はまるで、この東方人街そのもののようだ。
1人のチンピラが
すぐ少女に目をつける。
「へへ、お嬢ちゃん。
……俺とイイことしねえか?」
チンピラはそう言うなり、
脂ぎった手で少女の手首をつかんだ。
――瞬間。
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少女の手がチンピラの腕を振り解く。
自由になったそれがスカートの奥へ消え、
黒光りする鉄の塊と共に滑り出てくる。
鼻先に突きつけられた物を見て
チンピラは腰砕けに床へと座り込んだ。
共和国ヴェルヌ社製の導力銃。
小型ながら大口径を誇る火器で
もし火を吹けばチンピラの頭は消し飛ぶだろう。
……少女が護身用に持つ代物ではない。
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「最新型よ、試してみる?」
こういった状況に慣れているのか、
少女はいたって冷静だ。
構えた導力銃の銃口も微動だにしない。
そんな少女に圧倒されたのか、
チンピラはピクリとも動けなかった。
酒場の空気が凍りつく。
周囲の視線はみな少女に釘付けだ。
「ヒィック……嬢ちゃん。
それくらいで勘弁してやってもらえねえかな。」
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この状況に堪えかねたのか、
不意に誰かが言葉を発した。
しわがれていて、どこか色気を感じさせる声。
――ジャックだ。
彼は椅子に腰掛けたまま、
酒臭い息を吐き、後を続けた。
「コイツも十分反省してるはずさ。」
彼はそう言ってチンピラに視線を送る。
それに応えるように
チンピラは激しくうなずいて見せた。
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「私、ギャンブルをしに来たの。」
少女はぶっきらぼうにそう告げると、
左手の導力銃をそっと下ろした。
その表情は相変わらず冷たいままだ。
「……いいぜ、こっちに来な。
俺が相手してやるよ。」
ジャックの言葉に反応したのは
少女ではなく、ゴロツキどもの方だった。
互いに顔を見合わせつつ、
みなその顔にいやらしい笑みを浮かべた。
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