第6回 キング
ハルが酒場を訪れた次の日の夜、ジャックは
あのカード内容に従って港に向かっていた。
珍しいことに、酒は一滴もやっていなかった。
誰かに尾けられているのは気づいていた。
ジャックにはそれがエンリケという男の
使いであることもわかっている。
「安心しな。
俺は逃げも隠れもしねえよ。」
1/6
後ろを振り返り、大声で叫ぶ。
……だが、反応は返ってこない。
「ちっ、つまんねえヤツラだな。」
向き直り、再び寂しい裏道を歩き出した。
今夜は月のない新月の夜。
ジャックは街灯の光だけを頼りに、
夜道をひたすら歩いた。
かつてキングと繰り広げた大勝負、
その光景を思い浮かべながら………
あまりの強さから、
2/6
「キング」と呼ばれた伝説のギャンブラー。
キングこそはジャックの師匠であり、
また同時に最高のライバルでもあった。
7年前、ジャックはキングと
一世一代の大勝負をし――
ジャックはその戦いの勝利者となった。
2人の勝負は、共和国の闇に巣くう
有力者たちの権力争いに利用されていた。
キングは敗北の責任を取る形で……殺された。
間接的であれ、ジャックがキングを
殺したことはまぎれもない事実だった。
3/6
酒場を出て小一時間ほど経った頃、
ようやく彼の眼前に港の景色が広がった。
暗闇の洋上に巨大な船がひっそりと浮かんでいる。
……7年前、ジャックとキングが乗り込んだ船だ。
漆黒の塗装を施された船体は、闇に紛れ
よく目を凝らさない限りその存在には気付かない。
タラップに近づくジャックを、
小さな人影が出迎えた――ハルだ。
4/6
「ようこそ、ヴィクトリー・ジャック。」
「まさかそうやって、自分の足で
来てくれるとは思わなかったわ。」
「フフ、その度胸だけは認めてあげる。」
「………………………」
いつもなら軽口の一つでも叩く
ジャックだが、今夜だけは様子が違った。
ハルを横目に、
彼はさっそうと船に乗り込む。
船窓の光を浴び、その瞳が蒼く輝いた。
5/6
汽笛の音が深い闇に吸い込まれる。
やがて、船はゆっくりと岸壁から離れていった。
6/6
|