第7回 闇の晩餐会
船は音も無く、
なめらかな暗闇の上を走っていた。
静けさに満ちた外界と裏腹に、
鋼板1枚を隔てた船内には
ありとあらゆる光と騒音とが溢れていた。
大陸各地から集められた調度品に
陽気な音楽を奏でる楽師たちの一団……
王国から輸入されたシャンデリアの灯りが、
人の欲望の全てをあまねく照らし出していた。
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船体の中央に位置するホールでは、
乗客達が晩餐の後の会話を楽しんでいた。
みな紳士を気取ってはいるが、いずれも
共和国の裏社会で暗躍する有力者たちだ。
酒と食事、そしてギャンブルを楽しむ合間に
次に誰を殺そうかと相談し合うような輩だ。
顔触れは7年前とそれほど変わらない。
ホールのもっとも奥まった所に
まるで隠すように設けられた貴賓席――
7年前と同じく、そこには一群の男達の姿があった。
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屈強な護衛たちに囲まれた1人の老人。
それがこの船内パーティーの主催者、
シャムロック大老である。
へその辺りまでもある立派な白い髭は
彼の象徴であり、同時に権威の象徴でもある。
数年前に現役こそ退いたものの、
複数の組織の相談役を務めるなど、
その影響力はいまだ衰えをしらない。
まさに裏社会の怪物とも言うべき人物だ。
そのシャムロック大老が
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年に1度だけ開くこの船内パーティーは、
有力者たちの重要な情報交換の場となっていた。
もっとも、中にはとても友好的とは言えない
雰囲気を漂わせている者もいる。
エンリケとウォンだ。
エンリケは7年前、そして今回の
2度のギャンブラー勝負を企画した人物だ。
元々は導力器、それも兵器の商人だったが
10年前に東方人街との取引を始めると同時に
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薬物の密輸などのビジネスに手を広げ、
たちまちその勢力を拡大した新進気鋭の悪党だ。
一方のウォンは東方人街が誕生する以前から
この辺り一帯を根城にしてきた悪党で、
チンピラやゴロツキなどのヤクザ者を
束ね上げる組織のトップに立つ人物である。
この10年、東方人街はエンリケとウォン、
新参と古参の勢力争いの真っ只中にあった。
両者は互いに一歩も譲らず、
血で血を洗う抗争を繰り返してきた。
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そんな状況の中、7年前にエンリケが
提案したのがギャンブルでの勝負だった。
最高のギャンブラーによる、
イカサマ有り、1対1の大勝負。
この勝負に東方人街の縄張りを賭ける、
それで無益な抗争を少しでも減らそうと
ウォンに話を持ちかけたのだった。
当初、ウォンはこの企画に反対していた。
もちろん、抗争が続くことは
彼の組織にとっても大変な痛手だった。
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だが、昔気質のウォンは
安易に新奇な考えに飛びつく男ではなかった。
エンリケはこの話を
シャムロック大老へと持ち込んだ。
そして、大老は勝負の開催を許可した。
大老はウォンの一家の相談役でもある。
彼が許可を出した以上、ウォンも勝負を
受けないわけにはいかなかった。
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