『サフィー 第5巻 〜灰色街〜』夜が明けようとしていた。 サフィーは傷ついた左腕をかばいながら、 グレイタウンの狭い路地を歩いている。 王国のはきだめ、貧民窟、あばずれの住処。 グレイタウンを正規の名で呼ぶ者は少ない。 そんな街に、サファイアと名乗ってから 彼女は住み着いていた。 崩れかけた古い屋敷が見えてきた。 職の明らかでない者たちが、勝手に住む一角。 サフィーがアメジスと暮らす一室もそこにある。 ここに住む者たちに足りないのは わずかな金貨と、最低限の思いやりだけだ。 ひと握りの貴族階級が、彼らからパンを奪う。 パンのために、人は良心を売る・・・。 『今の私にはお似合いだ・・・。』 サフィーはそんな思いと、腕の痛みから 苦笑をもらした。 綿のはみでた粗末なベッドが、今は恋しく思える。 8つになったばかりのアメジスが サフィーを迎えてくれる。 その汚れを知らない笑顔を見て、 サフィーは意識が遠のくのを感じた。 |