エピローグ


デュルゼルの手紙

大勢の素晴らしい仲間に送られ、ジュリオとクリスはラグピック村へ帰路についた。別れは悲しかったが、2人の胸の中は、巡礼の旅を無事に終え、なつかしい村に帰れる喜びで、いっぱいだった。

ジュリオたちはデュルゼルの手紙を開けてみた。


《デュルゼルの手紙》
ジュリオ。
それに、クリス。
お前たちは本当によくやってくれた。
自分たちがどんなに素晴らしく、
良いことをしたのか、今は実感がないかも知れないが
お前たちは本当によく頑張った。
すべて、お前たちのおかげだ。感謝する。

この俺にしたところで、
ドルフェスの塔に、お前たちが来なければ、
たとえ、世界が滅んだとしても、
この重い腰を、上げなかっただろう。
我ながら、まったくザマがない。
どんなことがあろうと、へこたれない。
前向きに生きていくのが剣士の条件だと思いながらも
気がついたら運命を待つだけの老人になっていた。

俺のことを宮廷剣士の鏡とか、
希代の英雄だとか呼んでくれる者もいるが、
そんなのは、テイのいい勘違いだ。

俺のやっていた宮廷剣士などと言うものは、
城の役人に毛が生えたようなものだ。
志は、いつしか忘れ去り。気がついたらシガラミに
縛られて、目の前しか見えなくなる。

そうなってはおしまいだ。

英雄とは常に人々と共にあるべきものだと思う。

それは、特定の者の思惑を守る者でも、
戦いで名を馳せる武人でもない。
誰よりも純粋に弱き者の心がわかり、
前向きであり続けられる者のことだろう。

俺なんかより、
むしろ、ゲルドやお前たちこそが
英雄と呼ばれるにふさわしいのだ。
この旅を忘れるなよ。

英雄の心を持ち続けろ。
せっかく、ゲルドとお前たちが守り抜いた世界だ。
間違った方向に進めないのも、
次の世代を担う、お前たちの役目なのだ。

さて、こんな話がある。
お伽話でも読むようなつもりで読んでくれ。

俺がまだ宮廷剣士になる前のことだ。
剣士に憧れる俺は、
武者修行を気取って旅を続けていた。

そんなときだ。
帰った者のいない魔女の島からただ1人戻り、
魔法の都オルドスを開いた大魔導師オルテガが、
その地を離れて隠居したと耳にした。

以前からオルテガには興味があった。
もちろん魔法と剣では扱うものに違いはあるが
オルテガの極めた数々の魔法の話は
剣士が修行を積むのと近いものがあるからだ。

オルテガが大聖堂にいるあいだは、
とても恐れ多くて会いになど行けなかったが、
隠居したのなら話は別だ。俺は人づてにオルテガの
居場所を探り、山間の村へ行き着いた。

大魔導師オルテガはそこにいた。
血の気の多いだけだった当時の俺にも、
オルテガは優しく接してくれた。
俺はオルテガから様々なことを学んだ。

果たして、どこまで俺がそれを生かし切ることが
できたのか、今になっても怪しいものだが・・・。
オルテガを心の師と仰ぐ関係は、
俺がルード城の宮廷剣士になった後も続いた。

やがて歳月が経ち、イザベルがこの世界に現れ、
しばらくして、ゲルドが現れた。
この経緯については以前に話したとおりだ。

倒された白き魔女の横には1本の杖が転がっていた。
俺にはその残された杖に、
ゲルドの世界を憂う思いのようなものが
込められているように思えてならなかった。

俺はゲルドを埋葬した後、
ゲルドの杖を持ち、オルテガの元を訪ねた。

オルテガはその杖を見て驚愕した。
巧妙に力を封じてあったが、杖に込められた力は
予想を遙かに越えていたのだ。
杖にはゲルドの意志そのものが吹き込まれていた。

力を有する杖も両刃の剣と同じだ。
使うべきときに、使うべき者が使用しなければ
力は呪いと呼ばれることになる。
俺はオルテガにゲルドの杖を託すことにした。

オルテガは持てる魔法のすべてを駆使し、
ゲルドの杖を封印して形を変え、
力が容易には発動しないよう手を加えたのだ。
その杖を、クリスが持つようになったと言う訳だ。

ゲルドの想念が残るゲルドの丘で
銀の短剣と並べたときに杖が発動するよう
してくれたのはオルテガだ。
その為にオルテガは魔法の力をほとんど失った。

これでクリスの杖が、
なぜ、あのような力を発揮したのか
分かってもらえたことだと思う。
この話だけは、どうしても伝えておきたかった。

まあ、何はともあれ、
お前たちは巡礼の旅を立派に終えた。
たくさんの町も目にしたし、
数え切れない人にもあっただろう。

だが、これだけは言っておく。

大切なのは、その経験をどう受け止め、
どのようにこれからの生活に活かせるかだ。
いくら貴重な体験を多くしても、
自分の人生に活かせなければ意味がない。

英雄の心を持ち続けろ。

いいか、いい大人になるんだぞ。

なんか説教臭くなってしまって申し訳ない。
年寄りの戯言だと思って許してくれ。
長い手紙になってしまった。
この辺でそろそろ終わりにしよう。

さっき、ローディがやってきた。
お前たちを見送ったら
約束どおり、頼みを聞いてくれとな。

なあに、
若い剣士の考えることは察しがつく。
俺もそうだったからな。

ジュリオに返してもらった
エスペランサーが役に立ちそうだ。

俺も年をとった。
年寄りの冷や水と冷やかされるのもシャクだからな。
ここらで引退するにはいい機会だろう。

元気でな。
今度、会うときがあれば、
一緒に酒でも飲もうじゃないか。
                    デュルゼル

《追伸》

ジュリオへ。

頑丈で鋭い剣だけが良い剣ではない。

ときには刃がこぼれ、すぐにも折れそうな剣が
最良の名剣となることもある。

人の世も、かくあらん。



epi1


ラップじいさんとの会話

ジュリオ
あっ、ラップじいさんだ。

ラップじいさん
本当にごくろうじゃったのう。

ジュリオ
ねえ、ラップじいさん。

ラップじいさんって、さあ・・・。

ラップじいさん
なんじゃね。

ジュリオ
・・・・・・・・。

ゲルドは・・・。

白き魔女は、
この世界のために命を落としたけど、
それで良かったのかなぁ・・・。

後悔なんかしてなかったのかなぁ?

クリス
それに、
仲間から裏切り者扱いされる道を
自分から選んだわけでしょ?

きっと、辛かったと思うわ。

ラップじいさん
そうじゃのう。

じゃがきっと、
辛いばかりではなかったさ。

ジュリオ&クリス
・・・・・・・・。

ラップじいさん
お前たちに聞くが
巡礼の旅はどうじゃった?

ジュリオ
巡礼の旅?

うん。
始めはどうなるかと思ったけど、
すっごく、面白かったよ。

クリス
たくさんの人にも巡り会えたし、
素晴らしい思い出もたくさんできたわ。

ジュリオ
ひどい目にも、ずいぶんあったけどね。

ラップじいさん
うむ。

それと一緒じゃろう。

人は辛い思いをしても、楽しいと思える心がある。

だから1度でも幸せだと思える瞬間があれば、
その人の人生は幸せだったのじゃよ。

たとえ、それが死んだ後であってもな。

白き魔女が残した道を、
お前たちが通ってくれた。

ゲルドは後悔などしてはおらんさ。



epi2
ジュリオ
クリス。ボクたち、あの山のずっと向こうまで
行ってきたんだね。

クリス
うん。

メナート、チャノム、アンビッシュ、
ウドル、フュエンテ、ギドナ、それにオルドス。
いろんな町や村があったわね。

ラップじいさん
世界はまだまだ広いぞ。

ジュリオ
うん。

今度、旅をすることがあったら、
大蛇の背骨の向こう側や
ガガーブの向こうにも行ってみたいなあ。

クリス
もし、機会があれば異界にだって・・・。

私、ゲルドの生まれた世界を見てみたいわ。

ラップじいさん
よほど旅が気に入ったみたいじゃな。

ジュリオ
ラップじいさんは
異界に行ったことだって
あるんでしょ?

ラップじいさん
まあな。

ジュリオ
どうして、
そんなすごい人だってことを
みんなに黙ってるの?

ラップじいさん
ほほう、そうきたか。

いいかね、ジュリオにクリス。

これからは、
修行を積んだ魔法使いが悪い竜を倒したり。

腕っぷしの強い剣士が
剣一本で国王になるような時代じゃない。

それで事が収まるような
単純な世の中では
なくなりつつあるのじゃよ。

これからは一人一人が自分の持つ才能を役立て、
それぞれの暮らす場所で、
みんなのためになるよう頑張る。

そうでなくてはいけないのじゃ。

そのためには
伝説の英雄などというものは
邪魔なだけじゃ。

これからは、
大地に根をおろした力こそが
必要なのじゃよ。

ゲルドの心のようにな。

epi3


エピローグ


ゲルドの心のように・・・・。



ふたつの旅があった。
昔、白き魔女と呼ばれる娘がティラスイールを旅した。
異界から来た魔女は孤独な巡礼を続け、
一筋の希望の道を残した。

ガガーブの先に世界はなく、
大蛇の背骨の果てにも
世界はないと信じられていた時代の終わりに、
ジュリオとクリスは巡礼の旅をした。


epi4

2人は白き魔女の残した希望の道を通ってきた。

道は20年の歳月を隔てた今もそこにあった。

最大の災いラウアールの波。


2つの巡礼の旅は多くの人々の力に支えられ
災いの波から2つの世界を救った。

ときにガガーブ歴992年。
ティラスイールに新世紀の足音が聞こえ始める、
冬のことだった。


epi5






白き魔女と呼ばれる娘がティラスイールを旅した。

魔女の名はゲルドと言った。

gerdo

なぜ・・・。
なぜ、そんなに優しくなれる・・・。
肉体を捧げ・・・。
そしてまた魂を捧げ・・・。

この世界がお前の為に、
何をしてくれたと言うのだ・・・。


戻る