真・英雄伝説
《疾風のラヴィン・第1巻》

              カラムロ・カラムス

《風に吹かれて》
それは、王からの依頼だった。
王家に伝わる秘密の古文書が
盗賊によって盗まれた。
それを取り戻してほしい、と。

依頼を持ちかけられた2人の青年は
互いの顔を見合わせた。

王家の品が盗まれたのは
確かに一大事かもしれないが
相手がただの盗賊なら
大して難しい仕事ではない・・・

「どうする? マール。」
ラヴィンという名の若い冒険者は
傍らの相棒に呼びかける。

穏やかな表情の幼なじみは
こちらの出方を伺うようにして笑っていた。

丁度、強い風が2人の間を吹き抜ける。
だが、2人は少しもひるまない。

「行くだろ?」
ラヴィンが問う。

マールは風の吹く方へ顔を向けた。
「嵐にはあえて立ち向かう・・・」

そして、ふりかえる。
「宝は難所に隠されてるからね。」
ラヴィンが笑う。

「ああ、嵐の匂いがする。」

「王家に伝わる秘密の古文書って
 何なんだろうね。」
先を行くラヴィンに、マールが問う。

街道から外れた獣道。
その先に、盗賊が巣食う洞窟がある。

「盗賊が欲しがる代物か・・・
 その上、本の回収を
 冒険者なんかに頼むところを見ると
 ただの古文書とは思えないな。」

2人は呼吸を乱すことなく険しい山をゆく。
若さに満ち溢れる冒険者達は
好奇心に瞳を輝かせながら足を速めた。

あっという間に目標の洞窟へたどり着く。

穿たれた闇に溶けこむようにして
2人は洞窟へと忍び込む。

彼らの行方を追う
ふたつの瞳に気付かずに・・・

ひんやりとした空気の流れが
不精に伸ばした
ラヴィンの髪を左右に揺らす。

暴れる前髪のすきまから
こぼれている明かりを見つける。
ラヴィンは相棒に合図を出して
そのわずかな光へと足を忍ばせた。