真・英雄伝説
《疾風のラヴィン・第5巻》

              カラムロ・カラムス

《鳴く虫》
2人はその日、王都で宿をとっていた。
盗賊から奪った本を携えたまま。

本来ならば
その本を依頼主へ返すべきなのだが
どうにも昼間のことが
気になっていたからだ。

この本は一体何なのか。
あの少女は一体何者なのか。

本を手放してしまえば
それらの疑問は
謎のままで終わってしまうだろう。

そして深夜・・・

ラヴィンは隣のベッドに声をかけた。

「マール・・・寝たか?」

窓の外から
涼しげな虫の鳴き声が聞こえる。
ややあって、マールの声が返った。

「ううん・・・」

眠れるわけがない、と2人は心でつぶやく。

くたくたに疲れていたにも関わらず
好奇心が睡魔を完全に吹き飛ばしていた。

しばらく2人は
無言のままで時が過ぎるのを待った。

ベッドの中で、ラヴィンが昼間の出来事に
ゆっくりと思いを巡らせているとき・・・

「来た・・・」
マールが小さくつぶやいた。

気付くと、虫の声が聞こえなくなっていた。

次の瞬間
部屋の窓が大きな音を立てて破られる。
その音を合図に
2人は待ってましたとばかりに飛び起きる。

「お待たせ。」
身構えるラヴィン達の前に現れたのは
昼間の少女だった。

「待っていたみたいね?」
少女はラヴィンの返事を待たずに
鋭いナイフを投げ放つ。
ラヴィンは
脇に置いてあった剣を構えて応戦する。

ナイフを叩き落とす。
キン、という高い音が部屋に響いた。

マールがラヴィンの援護をしようと
魔法詠唱に入ろうとしたとき・・・

「・・・!?」

背中からの激しい痛みが
マールの表情をゆがませた。

「かは・・・」
あまりの苦しさに、喉からうめき声が漏れる。

背後には、いつのまにか黒い装いの
魔導師が立っていた。

ラヴィンは脇にあったランプに火をともす。
「マール!」

ラヴィンと向かい合っていたはずの少女が
魔導師に向かって声を張り上げた。

「ドルク!? これは私の仕事よ!」