真・英雄伝説
《疾風のラヴィン・第6巻》

              カラムロ・カラムス

《遠い日の夢》
「はぁ・・・はぁ・・・!」
ラヴィンとマールは、夜道を走っていた。

ラヴィンの手には
一冊の本がしっかりと握られている。

一瞬の隙をみて、2人はなんとか
同時に宿から飛び出したのだ。

そのタイミングは
長年の付き合いがあってこその
ものだったろう。

しかし敵は、苦もなく追いつき
ラヴィンの背後から炎の魔法を放つ。

ラヴィンは瞬時に飛びのいたが
魔導師は明らかにそれを狙っていた。

宙に浮いたラヴィンにもう一発
雷撃の魔法を叩きこんだのだ。

激痛が体中を駆け巡る。
ラヴィンは
もんどりうってその場に崩れた。

「ラヴィン!」

マールが駆け寄る。
「に・・・げろ・・・」
空気が漏れるような声でラヴィンは呟き
そこで意識を失った。

「君は・・・僕が守るよ。」

マールの呟きを最期に聞いた気がした。


・・・ラヴィンは昔の夢を見ていた。


小さい頃、マールと水遊びをして
びしょぬれになったことがあった。

水に体温を奪われて寒かった。
そこへ、容赦のない風が吹きつけて・・・

寒い。

早く、家に帰ろう。

そう思ったとき・・・
突如、意識がはっきりとする。

「あれ・・・」

ぼんやりと目を開く。
寒い。いつ寝たんだ?

『こんなところで寝ていると、風邪ひくよ。』

幼なじみの声が聞こえそうな気がした。
夢と現実の区別がつかず
ラヴィンは水に濡れた体を
早く拭こうと思った。

ぬるり、という感触がした。

そして目を見開く。

血溜りの中に寝ている自分。
辺りには真っ赤な血が飛び散っている。
背中が痛いが、怪我はしていない。
この血は、自分のものではない・・・!!

一瞬、息がつまる。

じわり、と冷たい汗が背中を伝う。

「マール・・・!
 マール!! 何処だッ!!」

姿の見えない親友の名を呼ぶ。

これは、自分の血ではないとしたら?

自分の血ではないとしたら!!

「う・・・あああああ!!!!」

風がラヴィンの絶叫を拾い
夜の街並みを吹き抜けていった。