真・英雄伝説
《疾風のラヴィン・第7巻》

              カラムロ・カラムス

《少女》
目が覚めると、そこは宿の一室だった。

ここは何処だ?
何故ベッドに横たわっている?

「俺は・・・」
自問していると、脇の扉が開いた。

「目が醒めた?
 あなたの手当はしておいたわ。」

声と共に、1人の少女が入ってきた。
夜の湖のように、涼しげで深い瞳。

少女の瞳は、柔らかな光をたたえて
ラヴィンを見つめていた。

「・・・私はルディ。」
黒髪の少女は、細い声でそう名乗った。

「・・・あなたが昼間戦った男たちは、
 ただの盗賊じゃない。
 この国を滅ぼそうとする
 恐ろしい組織の一部だったの。」

ベッドの脇に立ち
ルディと名乗った少女は静かに語った。

「あなた達が持っていたのは
 王家に封印されていた禁断の古文書。
 あれには魔獣を操る方法を記した秘術が
 記されているわ。」

一呼吸を置いて、ルディはラヴィンを見た。

「奴らは・・・
 あれを使って国をのっとるつもりなの。
 強大な組織よ。
 あの魔導師だって組織の一部でしかない。
 頭となる者は別にいるわ。」

「・・・マールは・・・」

話の途中でラヴィンはつぶやいた。

震えるラヴィンの声に
ルディは
隠すことなくはっきりと首を振った。

それがルディの優しさだった。

乗り越えなければならない真実がある。

『私も、それを超えなければならない』と
ルディは心の中でつぶやく。

「・・・俺を・・・俺を守って・・・」

親友の姿が、閉じたまぶたの裏に浮かぶ。
やるせない思いに
ラヴィンは肩を振るわせる。

「あんたは・・・
 あいつらの仲間じゃなかったのか。」

ラヴィンの俯いたままの問いに
黒髪の少女は力なく笑った。

「・・・そうね。そうだったわ。

 でも違う。

 私はあの書物で平和を築きたかった。
 でも、単にウソを信じこまされて
 利用されていただけ・・・」

表情は変えなかったが、声がやや低くなる。

「行かなくちゃ。

 やつらが魔獣を操るようになったら
 この国は・・・

 いいえ、この世界は亡びてしまう!」

決意を表す様にルディは言う。

「今ならまだ間に合う。
 ドルクが古文書を組織に渡す前なら。」

「待てよ。」

ラヴィンはルディの腕をつかんだ。
少女の細い手首が
ラヴィンの手の中に納まる。

「ひとりで行くつもりなのか?」