真・英雄伝説
《疾風のラヴィン・第9巻》

              カラムロ・カラムス

《希望は嵐の中に》
ラヴィンは魔導師の元に駆け寄った。

まさか・・・

希望と絶望が、胸のうちで交錯する。

「殺して・・・殺してやる・・・
 あいつ・・・あいつを・・・」

最後まで言い終わらぬうちに
大量の血がドルクの口内から溢れ出す。

それが、彼の最後だった。

『殺してやると言っていた・・・
 では、生きているのか・・・

 あいつは・・・生きているのか?』

返り血をぬぐい、ラヴィンは天を仰いだ。
「マール・・・」

ラヴィンは歩き出した。

「・・・行くのね?」

ルディがその背中に問い掛ける。
少女の声に、ラヴィンは歩みを止めた。

・・・マールが
本当に生きているとは限らない。
魔導師のでまかせかもしれない。
生きていても、救い出せるとは限らない。

それでも・・・と、ラヴィンは思う。

「あいつを・・・マールを探しに行くんだ。
 この世の何処かにいるのなら
 俺は地の果てまでも探しに行く。」

この古文書を持っている限り
組織はラヴィンの前に姿を現すだろう。

接触を繰り返すうちに
マールの生死も明らかになるに違いない。

強大な組織を敵に回すとしても
恐れはない。

本を握り締める手が震えているのは、
何故だろう。

ルディは
それ以上言葉を重ねずに
ラヴィンの背後に立つ。

その2人の背中を押すように
心地よい風が吹いた。

『嵐にはあえて立ち向かう・・・』

マールの声がラヴィンの頭の中で響く。

『宝は難所に隠されているからね。』

ラヴィンは笑う。

そうだ。希望は嵐の中にひそんでいる。
そうだろう? マール・・・

「これから、どこへ行くの?」

ルディが尋ねる。
ラヴィンは風の吹く方向へ指を示した。

「風の吹く方向へ。」

彼らの行く先は、まぎれもない嵐。

だが、ひるまない。

しっかりとした足取りで
ラヴィンは再び歩き出した。

嵐の向こうにある、希望を見すえて。


         疾風のラヴィン・完