戦記小説
《剣帝ザムザ・第1巻》

《銀杏輪舞》
時にガガーブ暦247年。

黄金色の葉がひらひらとロンドにあわせて
踊るかのように舞い落ちていく。

男は銀杏の大樹にもたれながら
目を伏せていた。

中肉中背。
年の頃は20代半ば。
秀麗な顔立ちは町中であれば
道ゆく女性の目をひくであろう。

ブロンドの髪をなびかせるさまは
銀杏の大樹が遣わした
使者のように見える。

空は暮色に染め抜かれている。
あたりは急速に明るみを失いつつあった。

男は、愛する遠くの故郷の景色を
脳裏に思い描いていた。
離れてもう随分経つ。

「ザムザ様、こちらにおいででしたか。」

自分を呼ぶ声で
男は現実に引き戻された。
だが、目は閉じたままである。

「リーボルか・・・兵の様子はどうだい?」

「は、先の戦いで勝利を納めているだけに
 兵の士気は高まっております。」

「そうか・・・十賢老たちは
 今回のミリガン殿との戦いのこと
 何か言ってきたかい?」

「そのことですが・・・・・・
 十賢老は赤の部族の総力をあげて
 徹底抗戦することを決議しました。
 ザムザ様にはその指揮をとるよう
 既に命令が届いています。」

「バカな・・・この40年間
 内部争乱を繰り返し
 部族のみんなは疲弊しきっている・・・
 私たち、赤の部族の劣勢は
 覆りようがないのだが・・・」

ザムザと呼ばれた男は嘆息した。

「敵とはいえミリガン殿は
 優秀な戦士にして不世出の用兵家。
 兵力だけでは不利だというのに・・・
 十賢老の爺さんたちには
 何か考えがあるのだろうか。」
かすかに目を細めながらつぶやく。

「このままでは
 私たちが壊滅の憂き目にあうのは
 必至だな。」

「いかがいたしましょう?」

「今は戦うしかないだろうね・・・
 いずれにしても時間稼ぎが必要だ。
 とりあえず今日はもう寝よう。
 リーボル、君も休め。」

「は・・・それでは失礼します。」

リーボルが去ったあと、ザムザは
目を伏せたまま腰の剣に手をかけた。

刹那、目が見開かれ
彼の利き腕が一閃した。
銀杏の大樹が梢で天を掃きながら倒れる。

「全く十賢老のじいさんたちが
 言うことには無茶が多い。」

ザムザは、やや投げやりに
天を仰いだ。