戦記小説
《剣帝ザムザ・最終巻》

《剣帝没す》
ザムザの剣はミリガンの右目を貫いていた。

だが、体を大きくよろめかせたのは
ザムザのほうであった。

大剣がザムザの右肩から
大きく体を斬り裂いている。

ザムザは地に崩れ落ちた。

「さすがですね・・・」

荒い呼吸の間から声を絞り出す。

「貴公こそ、剣帝の名に恥じぬ勇猛ぶり
 見事であった・・・
 だが、解せぬことがある。」

ミリガンは失った右目に手をあてがい
疑問に思いつづけてきたことを口にした。

「何ゆえ、1人で敵陣を突破するなどと
 無謀な行為に出たのだ。
 聡明といわれる貴公のことだ。
 理由あってのことであろう。」

「じつはそのことで・・・
 ミリガン殿にお願いがあります・・・」

ザムザは力なく笑い
かすれた声で語りだした。
妖術師テンペストの存在を。
そして、赤の部族が操られて
この戦いにのぞんでいることを。

「部族の者たちが無意のまま戦い
 多量の血を流す前に・・・
 ミリガン殿を倒し兵を退かせる・・・
 然るのちに・・・テンペストを打倒する。

 それが・・・できなければ・・・
 ミリガン殿に・・・身を呈して
 危機を伝える。

 私に・・・残された道は
 これしかありませんでした・・・

 ミリガン殿・・・
 今は・・・兵を・・・
 退いてもらえ・・・ません・・・か・・

 ・・・みんなを・・・赤の部族を
 お願いします・・・」

そこまで言ったとき
ザムザの体が前方へのめり込んだ。

剣帝は力尽きた。

この日、ミリガンは軍勢を引き上げ
一旦この地を離れることになる。

2年後、彼は妖術師テンペストを打ち破り
数十年に渡り続いていた
赤の部族の内乱を平定する。

ザムザの遺志を
確かに受け取っていたのである。

その後、大陸はミリガンによって統一され
エル・フィルディンという名を
冠することになる。


            剣帝ザムザ・完