戦記小説
《剣帝ザムザ・第3巻》

《 剣帝 》
この会戦に先立つこと一週間
赤の部族軍は、ザムザの指揮のもと
ミリガン軍と遭遇戦を行い
勝利を収めている。

その勝利が赤の部族の
兵の士気を鼓舞していた。

戦闘が始まり3時間余
ザムザは、なおも最前線にいた。

剣を振るうその姿は、まるで無駄がなく
しなやかな体つきの黒豹が
獲物を追い詰めているかのようである。

騎馬民族である赤の部族は
騎兵が軍の主軸であり
その兵は通常槍を使う。

だが、もともと剣闘士であるだけに
ザムザは剣を好んだ。

そして、その剣技は
きわめて独特である。

騎馬に乗ったまま
幅広の剣でいくつもの弧を描くように
斬撃を結ぶのだ。
その動きは滞ることを知らない。

剣闘士時代に身につけたものだが
部族伝統の剣舞のように
優雅であざやかであった。

槍を持って迫る騎兵の中で
ただ1人、自在に剣を振るう
ザムザの姿を見た者は彼をこう称している。

「剣帝」、と

その呼び名は
畏怖の対象としてのものであったが
時には賛辞としても用いられる。

ザムザの戦場における
捕虜の処遇は寛容で
礼儀を尽くしたものであった。

戦いぶりも常に正々堂々としたものであり
軍の統率ぶりも非の打ち所がない。

進軍するときは常に先頭に立ち
退却するときは自ら
しんがりを買って出る。

敵は勝っていても負けていても
常に剣帝の姿を目にすることになるのだ。

勇猛果敢にして
公明正大な「剣帝ザムザ」の噂は
大陸中に流布されていた。