戦記小説
《剣帝ザムザ・第4巻》

《 秋雨 》
戦場には、雨が振り出していた。
足場のかわいた土がぬかるみへと
変わっていく。

「あのブロンドが剣帝か・・・
 随分と美男子だな。
 それに思ったより小柄だ。」

前線から120ミロほど離れた
小高い丘から
ザムザの姿を見守る人物がいた。

筋骨たくましく
巨漢の部類に入るだろうか。

男の名をミリガンという。
ザムザにとって
敵軍の将たる人物であった。

ミリガンは剣の柄を弄びながら
熱っぽくつぶやいた。

「噂にたがわず、大したものだ・・・
 兵の統率力は申し分ない。
 十分に信頼を得ていなければ
 ああは行くまい。」

ミリガンが見守るなか
ザムザは得意の剣技で
1人、また1人と撃破していく。

「個人の武勇も素晴らしい・・・
 いずれ1対1で勝負してみたいものだ。
 そのとき手助けは無用に頼むぞ
 アルブレヒト。」

ミリガンもザムザのように
統率者より一介の戦士としての気質が
勝っていたのかもしれない。

そして、彼が話しかけたのは
金色の瞳、赤胴色の鱗に覆われた
巨躯を持つ竜であった。

大きく鋭い瞳がミリガンをとらえ
承知したといわんばかりに瞬きをする。

ミリガンとアルブレヒトは
十数年来の戦友であった。

「さて・・・
 今日のところは
 我々の負けらしい。」

ミリガン軍は赤の部族に対して
明らかに浮き足だっていた。

ザムザたちの奮闘によるものである。
秋雨が敗色強まるミリガン軍に
追い討ちをかけているかのように見えた。

だが、ミリガンはむしろ
せいせいとした表情で踵を返した。

今日負けても、最終的に勝つ算段が
彼にはあるのかも知れない。
そんな表情であった。

ミリガンが望んだザムザとの対面は
この後、全く予期しえない形で
実現されることになる。