戦記小説
《剣帝ザムザ・第6巻》

《 暗転 》
決戦を控えた前夜のことである。

野営地にある自分の天幕で
ザムザは十賢老からの手紙を受けとった。

先日、ザムザは十賢老に対して
講和のための提案書を送っている。

そのことについての返答だと思ったが
なおも抗戦せよという旨だけが
記されていた。

おかしい。
嘆息しながら
違和感にとらえられた。

これほどまでにザムザをないがしろにした
内容は初めてである。

この時期、ミリガンの軍は
全軍が集結しつつあり
戦局が覆るのも時間の問題であった。

疑惑を広げながら
ザムザは、あることに気づいた。

あたりが静かすぎるのである。

不審に思い
天幕から出ようとしたそのとき
部下のリーボルが入り口に
姿を現した。

「リーボルか。
 ちょうど、今呼びに行こうと
 思ってた・・・!!」

ザムザの言葉は
不意に突き出された
リーボルの剣によって遮られた。

「くっ!
 どういうつもりだい、リーボル。」

ザムザは
剣を繰り出すリーボルを
質したが応じる気配は全くない。

斬撃と刺突の連続をザムザは
身をよじらせながらかわす。

無言の応酬をしばらく続けるうち
ザムザはリーボルの瞳が虚ろで
意思が宿っていないことに気づいた。

その瞬間
リーボルの目が
毒々しく赤い光を放った。

光を注視したザムザは自分の意識が
一瞬遠のくのを感じたが
両脚を踏みしめ、拳で頬を打った。

かろうじて意識をとどめる。
激しい動悸が身体を襲った。

リーボルは虚ろな瞳ながらも
ザムザが正気を保っていることに
不服そうな素振りを見せ
再び剣を振りかざす。

彼はザムザの参謀であり
剣の腕は、平均よりましという程度である。
卓越した剣士とは言えない。

だが、今は一撃一撃が鋭く深く
ザムザの体をえぐるように放たれる。
無手のまま、いつまでも
やりすごせるものではない。

心臓への一撃を避けたザムザは
上半身をひねった姿勢のまま踏み込み
リーボルの背後をとった。

そのまま手刀を首筋へ叩き落とす。

リーボルは気を失い
地に伏せた。

ザムザが息をついたその瞬間
周囲の空気が歪んだような
錯覚にとらわれた。

「ほほう・・・
 さすがは剣帝殿であらせられる。」

嘲笑まじりの声とともに
突如、姿を現したのは
黒衣の妖術師であった。