戦記小説
《剣帝ザムザ・第9巻》

《 決意 》
翌朝、うっすらと霧がたちこめる平原に
赤の部族とミリガンの軍は布陣した。

騎竜アルブレヒトにまたがった
ミリガンの目は霧のなかに浮かぶ
敵兵のシルエットを凝視している。

「いよいよ剣帝殿と決戦だな。」

整然としたミリガン軍の隊列は
彼の統率力の高さを示している。

一方、赤の部族は
軍としての面目は保っているが
布陣の様子が平素とくらべて
どこかおぼつかない。

先頭に立つのはザムザであった。
彼のあとに続く赤の部族の兵士たちは
目が虚ろである。

昨夜、テンペストが告げた通り
彼らはザムザに
従っているわけではない。

テンペストの思惑通りに
動いているだけの傀儡である。

山の端から朝日が数錠の光を投げかけた瞬間
それまでゆっくり前進していた両軍は
いっせいに激突した。

ザムザは、いつものように
白刃を振るい敵兵の中に躍りこんだ。

だが、そこからが違った。
迫りくる相手をなぎ倒しつつ
1人前進する。

敵陣を奥へ奥へ。
ザムザは剣を振るいながら
単騎でひたすら駆けた。

敵を見据える瞳は
何かの決意を秘めたものである。

部族の者は誰もついてこない。
仮に正気の者がいたとしても
剣帝の一騎駆けに
ついてくることはできないだろう。

ザムザ1人が敵の中を行く。

浴びせかけられた矢を腕で振り払い
得意の剣技で1度に数人の敵を
馬上から振り落とす。
まるで戦神のようである。

昨夜、部族の窮地を知って以来。
彼の中に1つの決意が芽生えた。
それを成し遂げるため、後ろを省みず
無謀を承知で突き進む。

「剣帝が来たぞ!」

ミリガン軍では
怒号と悲鳴が入り混じった。

だが、押し包もうとする敵をも一蹴する
ザムザにも次第に疲れが見え始める。

彼の背中と足に数本の矢が突き立ち
剣尖が右胸を貫いた。