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《魔法で起きた魔王》
むかし、この大地には
『水底の民』と呼ばれる人たちがいました。
『水底の民』はとてもかしこく
さまざまな知恵のある人たちでした。
その知恵によって人々は導かれたのです。

かしこい『水底の民』はやがて
『魔法』を作り出しました。
それは、とても便利なものでした。
「風よこい!」と願えば風が吹き、
「火よもえろ!」と願えば
そのとおりになったのです。
人々の生活は、『水底の民』の作り出した
『魔法』によってとても楽になりました。
鍛冶屋のおじさんは
「炉に火をいれてくれ」
といって魔法を使います。
道具屋のおかみさんは
「洗濯をするから、桶に水をためてちょうだい」
といって魔法を使います。
隣のお兄さんも
「眠たいから暗くなれ!」
といって魔法を使います。
沢山の人が、みんな魔法を使いました。
ところが・・・困った事が起きたのです。

あまりに、みんながせわしなく魔法を使うので
遠い山で寝ていたはずの『魔王』が
怒って起きてしまったのです。
黒くて大きな『魔王』です。
家よりもっと大きな『魔王』です。
さあ大変です!
みんなは「どうしましょう」と
集まって相談しました。
「どうしたらいいんだろう」
と、鍛冶屋のおじさんは頭を抱えます。
「きっと、魔王はみんなを食べてしまうつもりだわ」
と、道具屋のおかみさんはふるえます。
「こわいよう! 魔法を使ったのがいけなかったんだ」
と、隣のお兄さんは泣き出します。
みんな魔王が怖くてどうにもできません。
困った人々は『水底の民』に相談しました。
『水底の民』は「子守歌を歌おう」と提案しました。
子守歌を歌って
魔王をもう一度寝かせてしまおうと言うのです。
『水底の民』は大きな声で、歌います。
「眠れ、眠れ、魔王よどうか、眠くなれ」
『水底の民』は優しい声で、歌います。
「眠れ、眠れ、魔王よどうか、眠くなれ」
すると、どうでしょう。

『水底の民』の子守歌を聞いたとたん
魔王は急に眠たくなって、もといた山へ
かえってゆきます。
そして、ごろん!
と、大きな音をたてて横になり
ぐっすりとまた眠ってしまったのです。
「魔王が眠ってしまったぞ!」
人々は大喜びです。
それから魔王が起きることはありませんでした。
魔王は『魔法の音』がうるさかったのです。
「魔王が起きないように
 もう魔法を使ってはいけません」
『水底の民』は人々にいいました。
それから『水底の民』は、2度と
姿を見せることはありませんでした。
遠くにあるという自分達の家に帰っていったのです。

こうして、人々の間から魔法はなくなり
魔王が起きる心配はなくなりました。
人々はもう、魔法は使いません。
魔王が起きては困るからです。