人形の騎士
【第10巻 かすかな痛み】
さみしそうな王女の口調に
ペドロの胸が、とくんと高鳴りました。


『武者修行の身なれば・・・申しわけない』


『いいえ、私の方こそ。
こんなことでは、立派な女王になれませんね』


王女はにっこりと微笑みました。
人形操りも忘れて、ペドロは顔を伏せました。

護衛として側にいたいのは山々でした。
いくら高貴な身分とはいえ
ティーア姫が、父親を亡くしたばかりの
孤独な女の子であることには変わりありません。
ですが、頼られているのは蒼騎士であって
従者風情のペドロではありません。
王女にとって、ペドロは単なるオマケなのです。

そう思うと、なぜか胸が苦しくなりました。
こんな苦しみは、人形を作っている時には
けっして味わったことがありませんでした。

結局、ペドロは選んでしまったのです。
たとえ王女を悲しませることになっても
耐えがたい胸の痛みから逃れることを・・・


『あの、おかわりはいかがですか?』


重くなった空気を繕(つくろ)うように
王女は笑顔で提案しました。


『いいねぇ、ボクにもご馳走してよ?』


不気味な笑いと共に、影が飛来しました。


『きゃっ・・・』


『なにッ!?』


突風が中庭を吹き荒れて
ティーセットが吹き飛ばされました。


紅の翼をはためかせ、降りてきたもの。
それは、悪魔をかたどった巨大な人形でした。


『優雅なお茶会も悪くないけどさ。
ボクの遊びにも付き合ってくれない?』


悪魔の左腕には人影がひとつ。
仮面の人形師、ハーレクインです。


『たっぷりと楽しませてあげる』


               つづく