【第16巻 公爵家別邸】
深紅の絨毯敷きの、贅を尽くした部屋。
郊外にあるガストン公爵の別邸・・・
『いいザマだ、ティーア』
満足そうな表情で、ガストン公爵は
椅子に縛られた王女をねめつけました。
『今日の戴冠式
どうするおつもりですか?』
静かな声で、ティーア姫が訊ねました。
凛とした瞳の色に、公爵はたじろぎました。
『そなたには欠席してもらう。
そして、第2王位継承者たる私に
冠と杖が授けられるというわけだ』
『民が納得するとお思いですか?』
『話が変わるが、ティーアよ。
そなたの嫁ぎ先を決めてやったぞ』
空色の瞳が、一瞬だけ揺れたのを見て
公爵は、不適な笑みを浮かべました。
『帝国の第2皇子で、なかなかの良縁だ。
後事は私にまかせ、そなたは新たな地で
女としての幸せを掴むがよかろう』
何という卑劣きわまる手段でしょう。
第1王位継承者たる王女の代わりに
公爵が即位するのは、たしかに通らぬ道理。
ですが、王女が嫁ぐとあれば話は別です。
ガストン公爵の即位は、既成事実として
まかり通ってしまうのが目に見えていました。
『閣下、そろそろ時間ですぞ』
副官の促しに、公爵は立ち上がりました。
『毎日の襲撃続きで、さぞ疲れただろう。
そなたは、ゆっくりと休んでいるがいい』
ぬけぬけと、恥知らずに言って
公爵は部屋を出て行こうとしました。
その時・・・
『そうはいかない!』
けたたましい衝撃音と共に
ガラス窓が、枠ごと吹き飛ばされました。
つづく
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