人形の騎士
【第6巻 王女の憂鬱】
『戴冠式が終わるまでの2週間
私を守ってくださいませんか?』

王宮の謁見の間。
ティーア姫は、真剣な面持ちで頼んできました。
もちろんペドロではなく、蒼騎士に向かってです。


『拙者ごときを頼みとせずとも
近衛騎士がおられるのではないか?』

蒼騎士が人形であることを言いそびれて
王宮まで付いてきてしまったペドロは
さらなる厄介ごとの予感に身震いしました。

『王都を守る近衛騎士団は・・・
叔父の、ガストン公爵の言いなりなのです。
先ほども、私を置いて逃げてしまいました』

ガストン公爵は、悪い噂の絶えない人物です。
前国王が病気がちだったのをいいことに
私腹を肥やしていたのは、公然の秘密でした。

『ペドロ様と剣をまじえた黒装束の方。
あれは叔父上の副官どのに違いありません。
すべては、仕組まれていたのでしょう・・・』

ティーア姫は、空色の瞳を曇らせました。
こうなってくると、お人好しのペドロに
護衛役を断るなんてできるはずもありません。


『わかり申した。お引き受けいたそう』


『よかった・・・ありがとうございます』


王女は、晴れ晴れとした笑みを浮かべました。
安堵のためか、ほのかな薔薇色に染まる顔を
従者を装っているペドロにも向けてきます。


『従者どのも、よろしくお願いしますね。
お名前はなんとおっしゃるの?』


『な、名乗るほどの者じゃありません』


ペドロは帽子を目深にかぶりました。


               つづく