人形の騎士
【第9巻 小王宮の午後】
王宮の午後は、中庭での茶会で始まります。
王女はいつものようにポットを傾けて
3つのカップに、紅茶を注ぎわけました。

『さ、どうぞ召しあがれ』


『かたじけない』


『いただきます』


ペドロは左手で蒼騎士を動かしながら
王女が淹れてくれた紅茶をすすりました。
忙しい1日で、もっとも幸せな瞬間です。

『従者どのは、とっても美味しそうに
召しあがってくださるのですね。
淹れる方としても腕が鳴りますわ』


『はは・・・恐縮です』


苦笑しながら、ペドロは糸を引きました。
蒼騎士の喉に取り付けられた革袋の中に
淹れたての紅茶が一気に注がれていきます。


ティーア姫は、はぁと溜息をつきました。


『それにひきかえペドロ様ときたら
ちっとも美味しそうじゃないんですもの。
張り合いがありませんわ・・・』


『面目ない。不調法なものでな』


ペドロは内心、ヒヤリとしましたが
澄ました顔で蒼騎士に答えさせました。

これまで、暴露してもおかしくない瞬間は
幾度となくあったのですが、ティーア姫は
蒼騎士の正体を疑うそぶりも見せませんでした。


ふと王女が、淋しそうにうつむきました。


『楽しい午後も、明日で終わりですね。
あさっての戴冠式が終われば
お二人は都を発たれてしまうのですもの・・・』


               つづく