【第12巻】
次の瞬間、吾輩の耳を爆裂音が打ち抜いた。
信じられなかった。
カメリア嬢が懐から緑の小瓶を出し、
兵士に向かって中身をぶちまけたとき。
全てが、突然、終わりを告げた。
『お父さま、許してください!』
水銀のようにきらめくどろりとした液体が、
網となってカメリアの前に拡がった。
それは空気に触れた途端、
激しくスパークして、吾輩の視界を遮った。
・・・そうか・・ナイトロだ・・
彼女の父親が発明したという爆薬・・・
光はやがて煙に変わり、
何人かの兵士たちが藁クズのように舞い上がった。
『ぼさっとするな!』
マグノリア将軍の腕が、吾輩のあごを直撃する。
そのまま、ラリアートをかけられたような格好で、
仰向けに押し倒された。
ふたりは真っ逆さまに、絶壁から落下・・・
そして。
吾輩と将軍は水面に浮かんだまま、
断崖の辺りを見つめた。
辺り、というのは、爆発によって、
そこがすでにどの場所だったか、
わからなくなってしまったからだ。
カメリアは、霧になってしまった。
兵士たちも、宝のある洞窟の入口も。
おそらく、宝そのものも。
全てが消し飛んでしまったのだった。
『・・・行くぞ、フロード』
マグノリア将軍が、吾輩の首根っこをつかんだ。
いまいましそうに独り言をつぶやいている。
『・・今度こそ、逮捕だからな。絶対、逮捕だ』
吾輩は引っ張られながら、拳を作り、開いた。
真っ赤な椿を水面に放つ。
それがせめて、あの美しい人への
手向けになることを願って。
椿の悲劇・終わり
|