【第2巻】
その夜。 吾輩はつまらぬ賭け事に負けて、 独り、ラム酒をあおっていた。 場末の酒場で。 普段なら、船乗りたちが飲むようなキツい酒を 口にしたりはしないのだが。 とにかく早いところ酔っぱらって、 怒りを吹き飛ばしてしまいたかったのだ。 ところが。 つまらぬことは重なるもの。 吾輩が引っかかっている止まり木のすぐ後ろで、 耳障りな騒ぎが始まった。 『じたばたするんじゃねえ!』 『早くこっちへ来い!』 下品なダミ声だ。不愉快きわまりない。 振り向くと、三文芝居のような光景が展開していた。 ふたりの毛むくじゃらな大男が、 麗しいご婦人の腕をつかんで、 店の奥へ連れて行こうとしている。 吾輩はジョッキを置き、 騒ぎの中心へと、つかつか歩み寄っていった。 ・・・断っておくが。 美しいご婦人の前で いいかっこうがしたかったからではない。 ただ、憤りをぶつける相手が欲しかったのだ。 |