【第5巻】
吾輩は唖然とした。 隣の寝台はもぬけの殻だった。 あの椿のような美女は、霧のごとく消えていた。 吾輩は、幻と消えた花を思って、ため息をついた。 すると、荒々しく扉を蹴破る音がした。 『詐欺師フロード! やっと見つけたぞ! 逮捕する!』 砕け散った扉の向こうには 大柄な美女が立ちはだかっていた。 漆黒の長い髪、チョコレート色の瞳。 ブランデーチェリーのように甘そうで 食べたら悪酔いしそうな唇。 ああ、この美しい人が宿命のライバルだなどと 思いたくはないものだが。 『これはこれは、マグノリア将軍。 吾輩と、朝のコーヒーを楽しみにいらしたのかな?』 とりあえず、ハッタリをかましてみる。 麗しのマグノリア将軍は 近くにあった椅子を力任せに蹴り上げた。 哀れな椅子は、粉みじんに砕け散る。 どうやら、コーヒーを飲む気分ではないらしい。 『今朝早く、善良な一市民から通報があった。 貴様も年貢の納め時だな』 剛毅な女将軍はサディスティックな笑みを浮かべ、 手にした重たい弩をぴたりと構えた。 |