手本引きは、賭博の一種ですが、昔の博徒がやった賭博の中では「丁半」など よりずっと格上で、手本引きをする(できる)博徒は一目置かれたようです。 清水の次郎長が大親分と言われたのも手本引きを主とした博徒であったからか もしれません。 このページではこの手本引きを紹介しますが、ここで知ったからといっても決 して賭博罪を犯さないようにしてください。手本引きは日本の生んだ推理ゲーム の傑作です。お金を賭けなくてもじゅうぶんに楽しめるものですから、あくまで もゲームとして楽しんでくださいね。 なお、手本引きがいつ頃から遊ばれていたのかは不明ですが、江戸時代に遊ば れていた証拠とされる黄表紙本の絵を紹介しておきます。 |
<手本引きの道具> 胴師が使う小さめの「繰り札」と張り子が使う「張り札」があり、それぞれ6枚 で構成され1から6の数字が書いてあります。図の上が繰り札、下が張り札です。 胴師がそれまでに選んだ数字を表示するための道具として、1から6までの数字 の書いてある目木(めもく)という木でできたものが6個あります。 胴師の前に並んだ目木は場所によって独特の呼び方をします。胴師からみて一番 右側(すなわち前回出た目)を「根っこ」、次が「小戻り」、3番目を「さんげ ん」、4番目を「しけん」、5番目は「ふるつき」、一番左を「大戻り」と言い ます。 基本はこの3種の道具だけです。他には通り、半丁と呼ばれる補助札とカミシタ という手ぬぐい状のものがあるだけで極めてシンプルな道具立てです。 通り、半丁は自分以外の人の賭けに相乗りすることで、通り札は同じ金額、半丁 札は半額だけ乗ることを意味し、それぞれを乗った人の方向に向けます。 |
<プレイの仕方> まず胴師が繰り札6枚を後ろ手または懐手で繰り、任意の数字の札を選びます。 選んだ札が他者に見られないようにしてカミシタの中に入れ、「入りました」と 宣言します。張り子は胴師が選んだ数字を推理し、1点賭けから4点賭けの範囲 で賭け金を張ります。各自は推理した数字の張り札を自分の前に伏せて並べ、全 員が張り終わると勝負となります。胴師は張り子全員と勝負するわけです。 胴師は自分の選んだ数字の目木を抜いて並んだ目木の右側に付けます。それか らカミシタを開けて数字を公開します。この行為を「唄う」と言います。動かし た目木の数字と公開したカミシタの中の繰り札とが一致しない場合は「唄い間違 い」と言って参加している張り子全員に総付けしなければなりません。 右側にある目木の数字(前回の目、すなわち連続で選ばれた)を選んだ場合は 目木に触ることなくカミシタを開けるのが作法とされています。 このゲームは基本的に廻り胴でプレイされます。張り子は胴師が何の数字を選 んだのか、それまでの出目(でめ)と勝ち負けの推移から推理し、胴師はその張 り子の推理を外そうと裏をかくわけで、その駆け引きの面白さはやってみないと 分かりません。たった6枚の数字を選ぶだけですが賭博としてではなくゲームと してもたいへん面白いものです。 胴師が心理的に追い込まれてくると、ほんらい六分の一である確率が三分の一 にも二分の一にもなって、張り子に当てられてしまいます。 |
<張り方> 張り方はかなり複雑ですが、代表的なものを以下にあげます。札の置き方とそ れぞれの配当はクリックして見てください。▲1点張り(スイチ or ポンキ) ▲2点張り(ケッタツ) ▲3点張り(九一) ▲4点張り(箱張り) 写真の中で、▲は配当マイナス、「種」は配当無し、すなわち「いってこい」 です。両方とも全部取られないための押さえです。配当は写真に書いてある数字 だけ賭け金とは別に貰えます。例えばスイチはほんらい確率から言えば5でなく てはいけないところ4.5ですから0.5分が胴に有利です。 賭け金は写真のように10万円を輪ゴムでくくったもの(ズクという)が最低 単位です。ですから一般のサラリーマンの手が出せる博打ではありませんし、最 近ではこれをやるのはその筋の人ばかりのようです。 ここにあげたものは張り方の代表で、実際はもっと複雑です。賭け金の置き方 によっても配当が変わり、置く場所も複数可能な場合もあります。 複雑な配当ですから胴師の左右に合力が控え、配当収支の管理をするのが一般 的です。合力は複雑な配当計算を一瞬の暗算でおこない、勝利者に投げるわけで すが、自分へのチップをとっても怒られないような場合は差し引いて投げます。 これを一瞬でできなければ一人前ではありません。なお、賭場へ納める寺銭は胴 師が洗って交代する時に浮き分から一定割合徴収されます。 しかし、最近は手本引きもサイコロを使う賽本引きに取って代わられてきてい ます。合力も少なくなり、関西では十数人ほどになったと聞きました。現在、ま だ手本引きをやっているのは関西の博徒で、関東では賽本引きばかりのようです。 |