(詰碁の創り方) 第5回
塚本惠一 著 [詰碁世界第10号(2001年7月発行)掲載]


1図 黒先

はじめに拙作を1題解いていただきましょう。
ちょっとした落とし穴もあって、中級コースに出題できるレベルかと思っていますが、皆さまのご感想はいかがでしょうか。
実は本作は2分もかからずに作図できたものなのです。その作図法が今回のテーマです。

第4回に前田陳爾先生の「創作詰碁の条件」を紹介しました。ポイントは、第1が作品のオリジナリティ、第2が筋、第3がスタイルでした。発表する場合はオリジナリティは必須ですし、筋の問題も当然です。ただし、第3のスタイルに関しては、そこまでこだわる詰碁作家はそう多くないような気もします。
私の場合はスタイルも重要な条件と考えています。拙著「算月」に監修の石倉先生から「図柄は簡潔にしてその変化は多岐にわたり、これまでありそうでなかった手筋も多く」という言葉をいただいたのは我が意を得たりです。
同じ手筋を表現するのなら、配置の面積が小さい方が良いし、できることなら最小の石数で表現したい、と思っています。それを達成するために納得がゆくまで推敲を重ねる。これが私の創作態度です。

昔から隅や辺の詰碁に比べて中央の詰碁が少ないことは皆さまもよくご存じのことと思います。実は中央の詰碁は作りにくいから作品が少ないのではなく、同じ筋を表現するなら辺や隅の方がコンパクトに表現できることが多いので中央の詰碁で後世に伝えられるものが少ないのです。
中央の詰碁を辺に移動したり、辺の詰碁を隅に移動したりすることは配置の簡素化をはかる有力な手法です。しかも、その上に辺や隅の特殊性を活用してプラス α を加えることができる場合さえあります。これは立派な詰碁の創り方で、私は「移動法」と呼んでいます。
この移動法で作図したのが1図の作品なのです。原型は初級向けの詰碁集をパラパラめくっているうちに手がとまった2図です。

2図 黒先白死
3図 2図の解
2図は悩むところもない3手詰めで、3図の黒3で白のダメヅマリということが見えるかどうかだけの初心詰めです。
それなのに私の手がとまったのは、見た瞬間に「石が多い」と感じたからなのです。同じ手筋をもっと少ない石数でコンパクトに表現できるはず、と。
これは辺の詰碁として表現されているので、単純に隅に移動するだけでも少し石を減らせます。それが4図ですが、これは頭の中でできることです。

4図
5図
6図 1図の再掲
4図が浮かべば白のアタリと黒のツギを省いた5図も浮かびます。これを起点に2手逆算したのが6図なのです。正解手順はもうお分かりでしょう。黒ハネ白コスミ黒アテ白ツギ黒ツキアタリに白アテ黒ツギの7手詰めですね。
初手の紛れと7手めの皮肉さで水準作であると思っています。6図は2図を移動法で隅に持って行って少し逆算しただけの詰碁です。それでも、模倣や焼き直しの類と非難されるものではないと思います。移動の結果として紛れが増えただけではなく、詰め上がりのダメヅマリが見えにくくなったという+α が生じているからです。2図を見て詰碁のネタになると思ったのは経験のなせる技なのでしょうけれども。皆さまも色々試してみてください。


本誌掲載後に6図(1図)に初手ハサミツケも成立する余詰が見つかりました。修正図は以下のとおりです。

7図 修正図
8図 7図の解



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