現代中国の麻雀


1、初期の中国麻雀
19世紀なかば、麻雀が誕生した頃のルールは馬弔などのルールに準じたものと思われるがあきらかにされていない。骨牌化の課程で花牌が多く取り入れられ、あまりに多種類となったために一種の廊清化が現在の浙江省寧波近辺を中心に生じたことはすでに述べた。この廊清化が完了した当時のルールを榛原茂樹(本名、波多野乾一、麻雀研究の第一人者)が想定寧波ルールとして考証している。

想定寧波ルール
(1)サイコロ一度振り。
(2)壁牌は平積み(各自が手元に13枚並べ、向こう側に21枚ずつ並べる。手元の13枚が配牌となり、21枚が壁牌となる)。
(3)配牌はサイコロの目が2・5・6・9・10なら自分の前の13枚を下家へ、3・7・11なら対面へ、4・8・12なら上家へ送る。
(4)符底は10符。
(5)得点計算は幺二(ヤオアル)式、細算法。サイド精算あり。
(6)流れは九種九牌(対子があってはならず、連荘扱い)、荒牌の二種。
(7)場風なし。
(8)加符役は以下のとおり
加0符平和(延べ単も可)
加2符搶槓・単張胡(純粋単騎和のみ)・嵌張胡(純粋嵌張和のみ)・辺張胡(純粋辺張のみ)・双ポン胡(純粋双ポン和のみ)
加4符対々胡・嶺上開花・海底撈月・金鶏奪食
一翻混一色
三翻清一色
半満貫地和(親の第1打牌で栄和)
満貫三元和・四喜和(自風の刻子があれば小四喜でも可)・九蓮宝灯・十三幺九(配牌で13種が1枚づつあるもの。雀頭不要)・十三不搭(配牌で13種がバラバラなもの。雀頭不要)
(9)包(パオ=責任払い)は大三元・大四喜を確定させた場合、清一色で四副露目を鳴かせた場合。
<日雀連機関誌「麻雀タイムズ」昭和27年1月号より>


2、現代中国の麻雀
麻雀は中国で誕生し世界中に伝播するうちにさまざまに変化していったが、本家中国でもルールは変遷した。伝統的なサイド精算は消滅し、栄和3人払いも形を変えたがそのルールは日本とは大きく異なっている。
以下に中国と台湾の麻雀について概説する。これは主として浅見了氏から教えていただいたものである。

中国大陸の麻雀
日本でも完全に統一されたルールは無いように、中国でも多くのローカルルールがあり、広い大陸のこととて地域ごとにさまざまなルールが混在している。以下に紹介するのは世界統一ルールとして中国体育総局が1998年以降まとめたものである。このルールは数あるローカルルールを集大成した一般的なものと言える。
なお、この「統一ルールは」オリンピックなどでの国際競技を企図して作られたもので、日本でも国際大会に向けて、このルールで麻雀競技をしてみようという活動がある。

中国麻将統一ルール
  • 花牌8枚(春夏秋冬、梅蘭竹菊)を入れ144枚を使用する。花牌は1枚1点。花牌は横に出し、手役には使わない。
  • 点棒は使わない。点数は毎局親が記入して全員がサインする。(一般の麻雀は毎局精算またはチップのやりとりなのでこのようなことは無い)
  • リーチ、ドラ、積み場、ノーテン罰符など日本独自のものは無い。
  • 王牌は無い。144枚すべてを自摸りきる。
  • チョンボ者は10点ずつを3人に支払う。
  • 振り聴は無い。捨てた現物でもロンできる。
  • 連荘は無い。
  • 包(パオ=責任払い)は無い。
  • 親と子で得点の支払いに差異は無い。
  • いわゆる食い下がりは無い。門前が条件となっている四暗刻など以外は食っていても点数は変わらない。
  • 上がりは8点縛りなので8点ないと上がれない。(これは日本ルールでは3翻縛りほどに相当する)
    [計算式]
    摸和(ツモ上がり)の場合各自は8点+役の点+花牌の点合計を払う
    栄和(ロン上がり)の場合放銃者は摸和と同じ点を、あとの2人は8点のみ払う

    (例)副露して10点の手を上がった場合
     ツモ→(11+8)X3=57
     ロン→(10+8)+8+8=34
    (基礎点がツモで11点となっているのはツモの1点が加わるため)


  • 上がり役は80種あり、難度に応じて1点(1翻役)から88点(役満貫)まで点数が決められている。すべてを紹介するのは冗長になるので割愛する。詳しくは浅見了氏のサイトで「中国麻将」のページをご覧いただきたい。
  • 捨て牌は各自の前に6枚ずつ並べる。(この項は日本の要望で取り入れられた)
  • 役が複合した場合、その役が前提となっている場合は原則として加えない。

ご覧のように国際統一ルールとはいっても日本ルールとは(欧米、台湾のルールからさえも)大きく異なる。日本人の場合、振り聴ロン上がりを認めるというあたりは容認しがたいものがあろう。
なお、この中国麻将国際統一ルールを遊んでみた感想を「気まぐれ日記」に掲載したのでご覧いただきたい。

台湾のルール
台湾でも当初は大陸のルールとあまり変わらなかったが、手役が少なく、リーチも食い下がりも無いため早上がり競争となりゲーム性が失われ、やがて13枚の手牌に1面子(メンツ)分を加えて16枚配牌でプレイするようになった。すなわち、5面子1雀頭の上がり形のものが現在では主流となっている。

  • 花牌8枚(春夏秋冬、梅蘭竹菊)を入れ144枚を使用する。花牌は1枚1点。花牌は横に出し、手役には使わない。花牌には席次があり、東家が春または梅を持っていると1点が加算される。南家は夏と蘭、西家は秋と竹、北家は冬と菊である。また春夏秋冬、梅蘭竹菊をそろえて手に入れるとさらに加点される。
  • 点棒は使わない。毎局精算またはチップを使用する。
  • リーチ、ドラ、積み場、ノーテン罰符など日本独自のものは無い。
  • 振り聴は無い。捨てた現物でもロンできる。
  • 捨て牌は卓の中に適当に置く。したがって誰の捨て牌かは後になれば判然としない。
  • 東家が上がると1点がプラスされる。
  • 食い下がりは無い。
  • 門前自摸は無い。
  • 役満は大三元、五暗刻、九蓮宝灯、国士無双、四喜和(小四喜)、字一色、清老頭、四槓子であるが、13枚で構成する役の場合、5面子目はなんでもよい。したがって九蓮宝灯や国士無双などで中張牌で上がれることになる。
  • 手役は清一色、混一色、対々和、単騎自摸、間張自摸、辺張自摸と非常に少ない。
  • 上がりの精算は、摸和(ツモ上がり)の場合、所定の点数を3人がそれぞれ払う。栄和(ロン上がり)の場合は放銃者のみが払う。よって摸和は栄和の3倍の価値があることになる。

このように台湾の麻雀は17枚を使用する以外はかなりシンプルなものである。


3、おわりに
以上のように現代中国の麻雀は日本麻雀とは大きく異なる。日本がゲーム性を追求する方向にルール改定がなされたのに対し、中国麻雀ではギャンブル性を排除せず、簡略性を追求したように見える。実際、日本では点棒が使用されるが中国では今でも毎局誰かが上がると現金精算である(もちろんある程度親しい顔見知り同士では両替などの面倒があるのでチップが使用される)。したがって上で述べた統一ルールはギャンブルを想定していないという面では画期的である。

浅見了氏によると、中国では雀荘は無いので誰か個人の家でプレイすることになる。この場合、お茶代として雀代を徴収する。そのかわりに料理などをふるまうという(料理を出さない家は嫌われる)。またゲーム前に何ゲームするかを決める。1束(1荘4回)を何回するかを決め、終了するまではメンバーの交代は認めない。主人側がときに交代することはあっても客が途中で抜けるなどは認められない。このへんは日本人とは文化の違いで興味深いところである。日本なら「仕事だから」などの理由で退席は認められるが中国では逆に麻雀をしていて仕事に遅れるなどは許容範囲(もちろん良くないことではあるが)とされるようである。
また博打であるからプレイ中のマナーには厳しい。不用意に手を頭の後ろに持っていけば、「そのまま静止」を命じられて、手の中に何も無いことを調べられるほどである。捨て牌も卓の中に散らばるので出した牌を全員が確認してから捨てられる。したがって先自摸などは起こりえない。博打であればあるほどゲームのマナーは良くなるという例である。(笑)


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